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東京高等裁判所 昭和60年(行コ)98号 判決

控訴人 大日物産貿易株式会社

右代表者代表取締役 土川周一

右訴訟代理人弁護士 湯一衛

湯博子

被控訴人 東京税関長 畠山蕃

右指定代理人 中西茂

〈ほか四名〉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

〔申立〕

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人の輸入申請にかかる三五ミリカラーポジフィルム「SHUN GA KO」(四リール一六一四メートル、リールナンバー四、五、六及び七)につき、控訴人に対し昭和五八年二月一九日付け該当通知書番号第四号をもってした輸入禁制品該当通知及び同年四月三〇日付けでした右通知に対する異議申立ての棄却決定をそれぞれ取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

〔主張〕

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正する外、原判決事実摘示中「第二、当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四枚目表五、六行目の「クローズアップ(大写し)している。」を「クローズアップ(大写し)されている。」と改める。

二  同五枚目表一行目の「興奮又は刺激せしめ」を「興奮させ又は刺激し」と、三行目の「判断は」を「判断については」と、五行目の「文書の猥褻性につき」を「文書の猥褻性について示した」と、同裏二、三行目の「なさるべきものとした」を「なさるべきものとする」と、五行目の「方法」を「基準」とそれぞれ改める。

三  同六枚目表六行目の「部分につき、右の」を「部分の」と改める。

四  同八枚目裏一行目の「最も近代的風景」を「最も近代的な風景」と、四行目の「歌舞伎座風景」を「歌舞伎座の風景」とそれぞれ改める。

五  同九枚目裏二行目の「二四〇」の次に「カット」を加える。

六  同一〇枚目裏一〇行目の「二二九」の次に「(別表記載のカット番号によるが、記載のないカット番号については甲第七号証のカット表による。以下も同様)」を、末行の「葛飾北斎」の次に「の」をそれぞれ加える。

七  同一二枚目表六行目の「武清作春画」を「武清作の春画」と、一〇行目の「絵、」を「絵は」とそれぞれ改める。

八  同一四枚目表二行目「頽発的」を「頽廃的」と、二、三行目の「頽発性」を「頽廃性」とそれぞれ改める。

九  同一七枚目裏二行目の「将軍家斎」を「将軍家斉」と、同二〇枚目表末行、裏一行目の「木版多色摺版画を」を「木版多色摺版画の」とそれぞれ改める。

一〇  同二二枚目表一行目の「寛政改革」を「寛政の改革」と、同裏六行目の「純粋な」を「純粋で」とそれぞれ改める。

一一  同二三枚目表六行目の「美的観賞」を「美的鑑賞」と改める。

一二  同二四枚目裏九行目、同二五枚目表一行目の各「ヘアー」を「陰毛」とそれぞれ改める。

一三  同二五枚目表八行目の「猥褻は」を「猥褻とは」と改める。

一四  同二六枚目裏末行の「昭和五五年」の次に「に」を加える。

一五  同二七枚目裏六行目の「猥褻性判断基準」を「猥褻性の判断基準」と改める。

一六  同二九枚目表四行目の「理解させるため」の次に「本件映画中に」を、五行目の「実写」の次に「フィルム」をそれぞれ加える。

〔証拠〕《省略》

理由

当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正する外は、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三〇枚目裏末行、三一枚目表一行目の各「本件通知処分」を「本件通知」と改める。

二  同三一枚目表六行目の「以後改めて」から九行目の終りまでを「かつ、これにより輸入申告にかかる貨物を適法に輸入することができなくなるという法律上の効果を伴うものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものというべきである(最高裁判所昭和五四年一二月二五日判決・民集三三巻七号七五三頁参照)。」と、同裏七、八行目の「並びに本件フィルム及び検乙第一号証の各検証」を「、原審における本件映画及び本件映画を収録したビデオテープの各検証並びに当審における本件映画の検証の各結果」とそれぞれ改める。

三  同三二枚目表三行目の「一色刷り」を「一色摺り」と、裏四行目の「《証拠関係省略》」とそれぞれ改める。

四  同三三枚目表二行目の「認められる。」を「認められ、浮世絵や美術史、風俗史等の研究家にとっては、右作品を通して前記のような絵画的表現、技法、背景の時代風俗等の研究をするうえで、参考になる部分は少なくないものと考えられる。」と、三、四行目の「浮世絵の描写内容は、」を「浮世絵は、」とそれぞれ改め、末行の「観客の」前に「前記のような研究家を除く一般の」を加える。

五  同三五枚目裏二行目の「理解できる」の次に「ことは前述したとおりである」を加える。

六  同三六枚目表五、六行目の「効果、作用を抑止してはおらず、」を「効果、作用は抑止されてはおらず、」と改め、同じ行の「描写は」の次に「なお」を加え、末行から同裏一行目の「淡々としており、」を「淡々とした口調となっており、」と、同裏四行目の「応えている。」を「沿うものである。」とそれぞれ改める。

七  同三七枚目表九行目の「害われていない。」を「いささかも損なわれていない。」と、同裏八行目の「《証拠関係省略》」とそれぞれ改め、一〇行目の「ロンドン」の次に「の画廊」を加える。

八  同三八枚目表八、九行目の「《証拠関係省略》」と改め、同裏七行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。

「なお、《証拠省略》によれば、我が国において現在専ら読者の性的好奇心に訴えることのみを目的とする出版物が多数出版され、その中には男女の性器、陰毛、性交及び性愛行為場面を露骨に撮影・描写した写真、イラストが掲載されているものも少なくなく、しかもそれら出版物は一般人が容易に入手できることが認められる。そして、少なくとも右のような写真、イラストの卑猥感は本件フィルムと比較して格段に強い。しかしながら、右写真等が掲載された出版物の中には通常の出版物と同一の態様で頒布、販売されているものではないものも含まれていることは公知の事実であり、したがって、それらが上記のように出版、流布されていることは、必ずしもそれらがその公然の陳列等を社会的に是認された猥褻でない出版物であることを意味するものとはいい難い。本件フィルムに撮影された浮世絵が今日なお見る者の好色的興味に訴える作品であると評価されることは前記のとおりである以上、右のような出版物が販売されていることをもって本件フィルムに撮影された浮世絵、ひいては本件フィルムの猥褻性を否定することはできない。」

九  同三八枚目裏九行目の「輸入禁制品該当通知」を「本件通知」と改める。

一〇  同三九枚目表一行目の「それが」の次に「全体として」を加え、六行目の「検甲第一号証の」を「原審及び当審における本件映画の各」と改める。

一一  同四〇枚目表七行目の「浮世絵春画」の次に「の撮影」を加え、同裏五行目の「本件通知処分」を「本件通知」と改める。

一二  同四一枚目表三行目の「また」を「ひいては」と、五行目、七行目、九行目の各「本件通知処分」を「本件通知」と、末行の「通知処分」を「本件通知」と、同裏二行目の「本件通知処分」を「本件通知」とそれぞれ改める。

以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島一郎 裁判官 加茂紀久男 片桐春一)

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